神と仏(林史樹)

江戸幕府は徹底した宗教統制を行い、キリスト教を全面的に禁止し、すべての民衆を仏教寺院(檀那寺)の檀家となることを義務づける「寺檀制度(寺請制度)」をつくりました。さらに、幕府から寺院に戸籍権、教育権が与えられ、寺院は保護を受けることによって幕藩体制下に組み込まれ、封建身分制度を維持・補完する役割を担っていきます。教団内にも身分差別制度ができあがり、門徒は家の宗教を継ぐことが当たり前となり、僧侶は門徒が固定化したため、熱心に布教する必要性が低くなり、伝道によって平等の社会を実現していくという本来の念仏集団の機能を失っていきます。明治に入って政府は神社の氏子となることを義務づける氏子調べを開始しますが、寺檀制度が氏子制度に置き替えられただけで、強制的宗教政策という意味では内実は同じものでした。寺檀制度と氏子制度は廃止されましたが、現在も実態として生き続けています。氏子であることも真宗門徒であることも自分で選んだわけではなく、所属させられてきた、とも言えるのではないでしょうか。「神さまも仏さまも信じる」という姿勢もそのような歴史の中で引き継がれてきたのかもしれません。「今の門徒とお寺との関係は、義理としがらみとうわべだけのおつきあいです」と、ある門徒推進員は言いました。僧侶にとっては厳しい言葉ですが、現在の寺院と門徒の関係を見事に言い当てています。